風邪・インフルエンザの治療について
はじめに
最近、不覚にも風邪を引いてしまいました。自分自身の治療経過をご紹介することで、風邪の治療に対する考え方を紹介したいと思います。
風邪ってどんな病気?
風邪はウイルスが感染することが原因の上気道や呼吸器の伝染性の病気です。風邪の原因となるウイルスは何種類もあり、ウイルスの種類によって風邪の症状が異なります。つまり、風邪と呼ばれている病気は本来、××ウイルス感染症と呼ばれる疾患ですが、医療の現場ではウイルスの種類を調べることはとても困難で、また、現時点では費用の点でも納得のできる値段では無理です。さらに困ったことに検査に時間がかかるので、結果が判明する頃には風邪が治ってしまっています。そんなこともあって、風邪のウイルスの種類を調べることは、まずありません。異論はあると思いますが、インフルエンザもある意味では風邪の一種です。他の風邪ウイルスとの違いは、症状がとてもきついので、簡単に検査する方法が開発されていて、しかも特効薬まで開発されている点です。今後、医学がさらに進歩していけば、いろんな風邪ウイルスに対する検査法や特効薬が開発されてくるのでしょう。ただ、現時点では風邪に対する特効薬はありません。
では風邪の治療方法はない?
確かに風邪のウイルスそのものをたたく薬はありません。こう書いてしまうと「なんだ!風邪を引いたら治療しても無駄なんだ」と早合点する人もいるかもしれませんが、これは間違いです。風邪をひいてもこじらせずに、つまり二次感染などの併発症を起こさないようにすれば、実は風邪はすぐ治っていきますし、それに症状も軽いので全然苦痛にはなりません。つまり、早く直すには極意があり、そこに医者としての腕の見せ所です。どんなに評判の名医やスペシャリストでもしょっちゅう風邪を引いているような医者を私は信用しません。自分の病気すら適切に直せないようなセンスと能力なら、はっきり言ってヤブと思います。
風邪って寒いところにいたらなる?
これは半分当たっていて、半分間違いです。よく言われるように、南極探検隊の人は風邪を引かないということです。つまり、最初はお互いに持ち込んだ風邪ウイルスに感染して風邪になるのですが、閉鎖された環境ですので、一度引いてしまえば免疫ができて、二度と引かなくなる訳です。南極では新しい人が入ってこない限り新しいウイルスが持ち込まれることはまずありません。だから、どんなに不養生をしても風邪を引かなくなる訳です。一方、普通の社会では、人間の交流が盛んなので、新しいウイルスがどんどん持ち込まれて風邪が蔓延するわけです。ただ、ウイルスがいても感染する人としない人がいるのです。一般的にいえば免疫力が高い人、過去にいろんなウイルスに感染して耐性ができている人は例えウイルスに暴露されても感染しないのです。寒い環境では、気道の分泌量が低下するので、洗浄能力が低下します。さらに血流量も低下するので組織の防御力や修復力も低下します。だから、寒さをこらえるような状況になると風邪になりやすいのです。実は人間の体には絶えずいろんなウイルスが感染しています。一般的に感染してから発症するまでの時間を潜伏期といいますが、これはだいたい3日から14日くらいあります。これを聞くと「あれ~、だったら昨日寒い目をしたからってどうして今日風邪になるの??」って思われるでしょう!これが風邪の治療の重要なポイントです。実は風邪の芽はおよそ3~14日前に蒔かれているのです。たまたま発症するかどうかの直前に不養生をすると発症してしまうだけなんです。と言うことは、養生さえしっかりしていれば、ほとんどのケースでは発症しないと言うことを意味します。前述の良く風邪を引く医者は信用ならないというのはこのことです。
風邪になってしまったらどうすれば良い?
風邪を引いても何もフルコースでウイルスにお付き合いする必要はありません。適切な養生と治療をすればほとんどのケースではすっと治っていきます。もちろんウイルスの感染力や毒性が強ければ重症化しますが、治療によって経過を軽くすることは可能です。では、具体的にどうすればよいかについて説明したいと思います。ただし、世の中の仕組みは一言で表現できる程、単純ではありません。いつもケースバイケースです。そこで私自身の症状の経過と治療経過をここで紹介することで、治療方法の一端をご紹介したいと思います。
インフルエンザにならない秘訣??
私は診察中もほとんどマスクをつけておりません。病気から逃げていてもきりがないからです。抵抗力・免疫力をつけて乗り切ろうと思っています。幸いなことに病気で休診という事態はまぬがれております。その秘訣を教えましょう。私は、毎日のように新型インフルエンザの患者さんの咳をバンバンあびています。当然ですが、喉の痛み、不快感など、風邪やインフルエンザになりそうという前段階があります。このとき、すぐに桔梗湯と麦門冬湯を飲みます。そうすると数分で喉がすっきりして治ります。その後はほとんどの場合、罹患せずにいけています。たまには、喉の不快感が再び現れることがあります。この場合は桔梗湯と麦門冬湯を繰り返し、症状が消えるまで服用します。数回も繰り返せば、治ります。こつは初期にバーンと一気に治すことです。この時期をすばやく乗り切らないと風邪・インフルエンザに罹患してしまいます。まさに桔梗湯・麦門冬湯さまさまです。漢方ですが、味がよいのもありがたいです。私は水なしで舐めるように服用しています。
風邪の闘病日記
1日目の夜、喉が少し痛い気がする。ちょっとしゃべりすぎたせいかと思う。風邪だという自覚なし。寝たら治るだろうと早めに就寝。夜中にふと猛烈な喉のヒリヒリ感と乾燥感で半分目が覚める。薬を飲まなきゃと思うが、夢うつつなのと、覚醒するのが面倒で、とりあえず頭から布団を被って寝る。布団の中は湿度100%、温度37度以上と気道にとっては理想的な環境になっている。気道の保護には加温・加湿が一番大事。さすがに少し息苦しいが「がまんがまん」で2日目の朝を迎える。普段はこんなので治っていることが多いが、今回はウイルスが強そう。さすがに喉は少し楽になっているが、風邪の引き始めの予感。喉の痛みに対して消炎鎮痛剤を服用する。鼻汁分泌はやや多い程度。不自由という程でもなく、むしろ気道の洗浄が促進されてむしろ良い感じ。もちろん抗ヒスタミン剤などは服用しない。咳などもなく、単に喉がひりつくだけ。この段階が風邪を引くか、そのまま治っていくかのターニングポイント!!3日目、今回もこれで逃げ切れるかと思いきや、夕方になり、水様の鼻汁分泌が多くなり、鼻水たらたらの状態。そのうち再び喉の痛みがひどくなってくる始末。これは葛根湯の証なので、葛根湯を服用する。葛根湯は軽度の鼻汁分泌亢進があり喉などの痛みがある風邪の初期症状に有効である。ただ、葛根湯がうまくあう期間は一般的に短いのが難点。葛根湯服用後症状が一気に改善し、ほとんど無症状となる。この日は気持ちよく熟睡する。4日目の朝、気分爽快。ほぼ治ったなと思う。暖かかったので、薄着で外出。「江戸の誘惑」という浮世絵の展示が神戸市立美術館であり、これを覧る。ガラにもなく美術鑑賞と洒落込んだが、美術館の中は絵画保護のために20℃に設定してあった。しばらくするとこれは寒い。再び、乾燥感、焼き付き感が増強してくる。そのうち痰や咳も出るようになり、しかもやや粘調。切れにくい。不覚にも風邪のぶり返しをしてしまう。帰宅後、麦門冬湯という漢方薬を飲む。この薬は乾燥した気道に潤いをもたらし分泌をなめらかに促進してくれる。一般的に漢方薬は副作用が少なく、しかも呼吸器に対する薬が豊富でうまく使うと西洋薬など足元にも及ばない程有効である。5日目、麦門冬湯の効果は絶大。喉の症状は一気に消えてすこぶる爽快。治るのかな~と思いきや今回のウイルスの毒性が強かったみたいで、昼頃より、鼻汁や痰が粘調かつ膿性になる。膿性になったということは、粘膜の損傷がある限度を超えたということを意味し、抵抗力の落ちた粘膜に細菌感染したとを意味する。つまりウイルスと細菌の複合感染状態である。こうなるとこじれた状態で、本来なら入らなくても良い領域である。抗生物質と消炎酵素製剤の出番である。鼻汁がねばいので鼻がつまりやすい。鼻のつまりには洗浄が一番有効。洗面ついでにぬるい湯を通っている方の鼻孔より吸い込み、今度は吸い込んだ方の孔を押さえて力むと、閉塞している方の孔より湯が出る。普通の状態なら水を鼻孔より吸い込むとキューンとしみるが、乾燥した粘液がこべりついているので、全然痛くもなく洗浄ができる。これを何回か繰り返すと、汚い鼻汁がでてくる。何回洗浄するかは、鼻にしみる直前で止めるのがコツ。もちろん生理食塩水を使えば鼻にしみることはないが、面倒なのでたいていはお湯でしている。同様にお湯でうがいをすると喉にこべりついた汚い痰が出てくる。うがいには強いてうがい薬を使う必要性も有効性もない。お湯や塩水が一番で、とにかく回数をたくさんするのが良い。6日目、鼻汁や痰の性状も粘調ながら膿性の程度も軽くなってくる。とにかく抗生物質、消炎酵素製剤の内服を続ける。夜になり悪寒がするようになる。仕事中なら解熱剤を使うところだが、今は休める状態なので、厚めのパジャマを着て、毛布やら冬用の布団を被って寝ることに。基本的に熱は生体の防御機構なので下げない方が良い。ただし仕事中ならそうは言っておれないので仕方なくさげることになるが・・・。しばらくすると熱が出きったのか、さすがに熱くなってきた。それに汗をかいて気持ちが悪いので、起きて入浴する。一般的に風邪の時にお風呂にはいるなと言われているが、私は入ることを勧める。昔の人は体力を消耗するとか湯冷めするとか言っていたが、それは過去の状況での話である。昔のお風呂は、自分の好みの温度にボタン一つで調整できない。温度を変えようとすれば誰かが外で薪を焚く必要があった訳である。それにお風呂自体が外にあったりで、行き帰りの間に冷えてしまい、お風呂にはいるのは確かに一仕事であった。現在は便利な状況なのでさっと入ってさっと寝ることを勧める。7日目、たまに咳や痰が出る程度で、消炎酵素製剤のみ服用する。あとしばらくすると全快でしょう。やれやれ、今回は不養生のためこじらせてしまったと反省。ウイルスの毒性を甘く見てました。
最後に
このように症状に応じて薬を変えていく訳です。市販の総合感冒薬には抗ヒスタミン剤、消炎解熱剤などが混ぜてありますが、実はほとんどのケースで不適切な薬ばかりなので、風邪が治るよりこじれる確立の方が高いのです。抗ヒスタミン剤は微妙な薬で、確かに鼻汁分泌を抑えてくれて、ちょっとめは楽になるのですが、分泌抑制のため、洗浄効果がなくなるので、二次感染しやすくなります。その上、気道が乾燥するので、気管支炎を併発しやすくなり、咳や痰が出てきて、風邪のフルコースになります。葛根湯由来の風邪薬も愛用者が多い薬ですが、葛根湯が有効なのは、引き始めの初発症状だけで、1-2回服用して治らなければ、症状は変わっているはずです。こうなると別の処方にしなければこじれます。
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